マンション管理士の独り言・・・1104

マンション管理士の独り言・・・1104

「福岡の傾斜マンション」

ネットで調べれば固有名詞も出てくるマンションです。JR九州が中心となったデベさん企業体で、施工は若築建設が行っています。若築建設と言えば北九州でもリビオシリーズで何棟か建築しているゼネコンさんです。
傾斜の原因は、2本の杭が支持層にまで到達していないことのようです。4m~7mも短いそうです。何でこんな事になったのか?なぜこのような施工をしたのか?全くわかりません。

建築的なことは横に置いといて、管理組合さんは今までさぞかし大変だったことだろうと思います。
数棟あるうちの1棟にしか被害が及んでいないというのがまず厄介です。
被害棟のお住まいの方の大半は徹底的に原因を究明すべきとお考えでしょうが、その他の健全棟の方は、本件に関しての熱意も薄くまた風評被害で資産価値が落ちると思われる方も多くいるはずです。
「お前らが騒ぎ立てるから、マンションが安くしか売れなくなった」と罵声を浴びせられたこともあったかもしれません。
このような案件をよく扱っているI建築士に依頼しているようですが、依頼すること自体も、またその費用を支出するのだって総会の決議が必要になります。
理事会で議案を作成し総会で承認を得なければなりません。
たまたま今回は杭の長さが足りなかったことが判明しましたが、もし傾斜の原因が判明していなかったとしてもI氏への依頼料は発生します。
住民(組合員)の中でもいくつものグループに分かれちゃって、意見の対立もあったはずです。
これまでの間で、とっとと住戸を売り払って転居した人だって大勢いたはずです。

しかしこれからがまた、茨の道です。
デベさんやゼネコンさんとの交渉が始まります。築後20年を超えているようですから民法の不法行為も問えないかもしれません。
デベさんやゼネコンさんは、交渉の窓口を一本化してくるように言ってきます。
「交渉委員会」みたいなものを造って交渉にあたることになるのでしょうが、成り手がいるのか?交渉委員会メンバーは皆同じゴールイメージを持っているのか?交渉委員会にどこまで権限を与えるのか?理事会との関係は?
さらに弁護士を雇うことになると思いますが、その費用支出について総会承認してもらうことが必要です。この際、必ず勝訴になるのか?もし敗訴となれば弁護士費用で2重被害だ。
どこまでの補償をデベさんやゼネコンさんに求めるのか?など気の遠くなるような数回にも及ぶ合意形成作業が待っています。

そしてそのうち始めは同じベクトルだった人が、少しずつ違う方向を向き始め最後には内部分裂するというパターンを何度見てきたことか。

何をするにもお金がかかります。個人ならば自分の懐具合を考えながら進めることができますが、マンションの場合は組合員全員のお金を使用することになり、つまりは総会での承認が必要です。
このような案件では、過半数を目指すのでなく、より多くの方の賛成が必要です。
そのための合意形成作業がとても困難です。

購入したマンションが傾いているという事実よりも、こんなことに巻き込まれてしまったことに対してとてもお気の毒に思います。