マンション管理士の独り言・・・1310

マンション管理士の独り言・・・1310

「原告適格」

マンション管理組合が売主などを相手取って訴訟を提起する場合に、最初に厄介なハードルがそびえています。原告適格です。

原告適格とは、訴訟を提起する原告の立場として客観的な合理性があるかどうか、平たく言えば損害を被った主体かどうかです。

例えばAさんが詐欺にあい被害を被った時にAさんは原告となって詐欺師を訴えることが出来るのは当然ですが、つぶやき主がその詐欺師を訴えることは出来ません。

つぶやき主は詐欺にあった当事者でもなく損害を被ってもいないからです。

マンション管理組合が売主の不法行為(施工不良、重要事項説明義務違反)や売買契約上の債務の不履行などで被った損害の賠償を求めて、売主に訴訟を提起しようとする場合があります。

この場合、管理組合が原告となれるかどうかが争われます。

損害賠償額の認定や不法行為があったかどうかなどの主たる請求内容について審議される以前に管理組合が原告として適格かどうかが審議され、その結果「適格無し」と判断され主たる請求内容に行き着かず、それで結審してしまうというパターンが結構見られます。

一般的な管理組合は法人化されておらず、権利能力なき社団として扱われます。

ですから訴訟提起の場合は、理事長かもしくは総会で選任された訴訟代表者の名前が原告となり訴訟が提起されます。

原告「〇〇マンション管理組合 理事長△△△△」と言う具合です。

ここで問題となってくるのは、売主の不法行為で損害を被ったのは本当に管理組合でしょうか?

売主とマンションの売買契約を締結したのは個々の区分所有者なので、各区分所有者が共有持ち分割合に応じて損害の賠償請求できることは言うまでもありません。

では管理組合 理事長が、損害を被ったとして管理組合員全員を代理して訴訟を提起できるのでしょうか?

2016年東京地裁では、売主(分譲会社)に対し管理者が債務不履行・不法行為などに基づき9170万円の損害賠償請求を起こしましたが、管理者が区分所有者全員の代理を出来ないことを理由に請求却下の判断となりました。

管理組合側の弁護士さんは、原告「〇〇マンション管理組合 理事長△△△△」方式で原告適格アリと踏んだのでしょうが裁判所で却下されちゃいました。

分譲会社との間で売買契約を交わした区分所有者はその持ち分割合に応じ損害賠償を求めることは出来ますが、分譲会社からの購入者でない、いわゆる中古マンション購入者には分譲会社に対する損害賠償請求権はないので管理者は転得者を代理することは出来ないというのが理由です。

区分所有法26条4項には、「管理者は(中略)区分所有者のために、原告又は被告となることが出来る」と規定されていますが、この❝区分所有者のために❞と言うのは「区分所有者全員のために」と解するのが相当とされます。

中古マンション購入者は、売主からでなく売主から購入した個人から譲渡を受けた転得者です。売主とは直接的な法律関係にはありません。

損賠賠償を請求できる権利は売買契約に付随するとなっていますので、転得者は売主に対し損害賠償請求権は保有していないことに成ります。

従ってこの裁判では、転得者は売主に対し損害賠償を請求できる立場にないから、管理者は管理組合員全員を代理することは出来ない。と判断されたのです。

このようなこともあり、実際の裁判では、管理組合全体ではなく、訴訟に参加する人が集まって訴訟提起するということの方が多いようです。