マンション管理士の独り言・・・1311

マンション管理士の独り言・・・1311

「管理組合が原告となることのハードル」

前回に続き今回も管理組合が原告となって訴訟を提起することの難しさと理不尽さをつぶやきます。

売主の不法行為などで損害を被った管理組合が、自身が原告となって訴訟を提起するのはとても難しい作用を伴います。

中古で購入した人は売主不動産屋さんとは法律関係にありません。

損害賠償請求は売買契約に付随するとされているので、転得者は売主不動産屋さんを被告としての訴訟には加われません。

それ故に理事長や総会で訴訟の代表者として指定された管理者は転得者の代理となることが出来ず、従って管理組合の代表者とは認められないという解釈です。

ただし、売主を相手方として売買契約を締結した人は、持ち分割合に応じて個人でも訴訟を提起することができます。

そこで多くの管理組合では、訴訟に参加する人は❝この指とまれ方式❞にならざるを得ません。

出来るだけ多くの人に訴訟へ参加してもらうために承諾書にサインを求めます。

多ければ多いほど管理組合の総意に近いと裁判官の印象も良くなるからです。

多くの人に訴訟に参加してもらう努力と手間暇が第一のハードルです。

しかし❝この指とまれ❞方式では、訴訟費用や弁護士費用を管理費から支出することは出来ません。あくまで管理組合内部の有志の集まりとなるからです。

これら費用は訴訟参加者の按分負担となってしまいます。

訴訟費用などについては自腹を切ることになり、これが第2のハードルです。

管理費で賄ってくれるなら訴訟することを望むけど、自腹切ってまでは、と躊躇する人が沢山出てきます。

第3のハードルは請求金額です。請求できる金額もマンション全体の損害額でなくて、訴訟に参加した人の持ち分割合の合計額が上限となってしまいます。参加者の数にもよりますが、思ったほどの請求額にならないというケースも見られます。

第4のハードルは、仮に要求が認められて賠償金が支払われることになっても、そのお金は管理組合に入金されることなく、訴訟参加者の持ち分割合に応じて分配されることになります。仮に施工不良という不法行為で売主を提訴して、思惑通りに要求が認められても賠償金は管理組合に入らず、個人のものとなってしまうのです。

施工不良ですから補修をしなくてはなりません。個人に入金されてしまえば、補修が出来にくくなります。訴訟参加者も我が懐を潤わすために訴訟に参加したのでなく、建物の補修費用の足しに少しでもなれば、と思っているのですがそうはなりません。

最後のハードルは合意形成の難しさです。

当初は売主憎しでまとまっていたのですが、歳月の経過とともに厭戦気分も蔓延し、「これぐらいで妥結しよう」「一部の人ばかりが活動し、他の人は自分で動かず様子見に徹している」その挙句に「私は降りた」なんて人が出てきます。

方針の違いにより分派するなんてこともあり得ます。

また、被告となる売主さんも、「全員がまとまってくれれば話は一回で済むからいいけど、アッチからコッチからと別のグループから訴訟を起こされたらたまったもんじゃない」となります。

管理組合が原告となるのはかなり高いハードルがそびえます。