マンション管理士の独り言・・・651

「設計士と施工業者の考え方」

大規模修繕工事では、屋上防水補修を行います。
第1回目の大規模修繕工事でも第2回目でも行われます。
屋上防水の保証期間は10年なので、大規模修繕工事の都度実施されるのが一般的です。

どのような補修が行われるかと言うと、シート防水やアスファルト防水、シングル葺きなど仕様によって異なりますが、大きくは『被せ工法』か、『全撤去工法』かの2種類に別れます。
『被せ工法』と言うのは、既存の防水層をそのままにしておいてその上にさらに被せるという工法です。
『全撤去工法』というのは文字通り既存の防水層を一旦全部撤去して新たな防水層を新設するという工法です。
費用の話はさておき、多くの解説書なんかでは新築後概ね15年目で実施される第1回目の大規模修繕工事時では『被せ工法』、第2回目では『全撤去工法』を推奨しています。

ところが第1回目でも防水層の損傷が激しく、その下のコンクリート躯体に雨水が回っているおそれがあり、躯体部分の補修も随所に必要となった時には、『かぶせ工法』でなく『全撤去工法』で補修が行われたりします。
また、『かぶせ工法』は既存の防水層をそのままにして上から更に被せるわけですからその分重みが増します。
屋上がどの程度の耐力があるのかを確認しなくてはいけませんが、そのあたりの構造計算書を保管している管理組合さんなんてそうそうお目にかかりません。

防水層を上から見ただけでも屋上コンクリートにクラックが見られ、防水層も損傷が激しく下に雨水が浸水している、更に構造計算書もない、となれば設計士は『被せ工法』でなく『全撤去工法』で補修すべきだと考えます。
また、『かぶせ工法』の場合には機械固定となって屋上スラブにドリル穴を開け、円盤状の機械で固定するので工事期間中は最上階住戸の方への振動、騒音もあります。

これに対し施工業者は、『かぶせ工法』を推奨します。
理由は、管理組合さんの費用負担が少なくて済む、第1回目の屋上防水補修は役所関係を含めほとんどが『被せ工法』、構造計算書がなくても『被せ工法』で増える荷重に十分耐えうる、などです。
しかし本音では全撤去して新規の防水層を施工するまでの間に大雨でも降られると剥き出しの屋上コンクリートに雨水が浸水し、最上階住戸に雨漏りが発生するかもしれず、そんなリスクは犯したくない。
また、防水層を新設するまでの間の養生についてもブルーシートだけでは心もとない、ということもあるようです。

設計士からすると全撤去して屋上スラブの補修をしっかり行いたい、構造計算書もないのに荷重が増す『被せ工法』は採用したくない、要するに設計士としてしっかりした補修を行いたい、です。
施工会社からすると、全撤去~新設の間に雨が降って最上階住戸に雨漏りが生じた時のリスクを負いたくない、です。

それぞれの立場で正当性のあるもっともな意見が対立します。
立場の違いで、意見が異なるのは社会の常ですが、大規模の現場では、設計士の指示通りに施工するのが施工業者の務めです。
討論会ではありませんから、現場のルール、業界の常識に従わなければなりません。

勉強することが多いです。