マンション管理士の独り言・・・688

「横浜傾きマンションの裏側にあるもの・・・④」

本マンションの売主の三井不動産や工事を請け負った三井住友建設や杭打ちを担当した旭化成建材なんかは、補修したり建て替えたりで終わるのでしょう。
確かに企業の信用はガタ落ちですし、沢山のお金もかかることでしょう。でも信用もそのうち回復しますし、お金だってそこは大企業、なんとかなっていくことでしょう。

でも管理組合はこれからが大変です。
合意形成を得なくてはならないからです。
とても長い道のりです。誰がどうやって進めていくのでしょう?
こんな場合でも区分所有法では建て替えとなり、全区分所有者数と議決権総数の5分の4以上の賛成が必要です。
この建て替え決議は強行規定とされ、4分の3とかにハードルを下げることは禁止されています。
そして5分の1の反対者に対し賛成者の誰がが、「お宅の住戸、私が買うよ」といえばそれで売買契約成立するという形成権の対象となっています。
通常の売買では、売主と買主双方の合意が必要ですが、形成権の場合建て替え賛成者が、反対者に示す購入の意思表示(もちろん適正な時価です)だけで売買契約成立となるのです。これは建て替えをスムーズに進めるために5分の1の反対者に、“そんならこのマンションから出て行ってよ。5分の1のごく少数の反対者の存在で多くの人が賛成している建て替えが上手くいかなかったら困るっしょ”という趣旨のものです。
もっともこの建て替えの場合の形成権をめぐる訴訟も起こされていますが・・・。
こんな状態になるともう人間関係はズタズタです。

しかもこの横浜マンションの場合、団地を構成しているようですから、もっと複雑な議決要件が求められます。
更に区分所有者の中には、ローンを利用している人もいればキャッシュで購入した人もいるでしょう。
ローンをまだ返済中の人は、その住戸に抵当権が付いていますのでこれを新築マンションの自分の住戸へ付け替える手続き(これを権利変換といいます)も行わなきゃですので、金融機関との調整も必要になってきます。

また、“購入時には子供も小さかったので4LDKが必要だったけど、今は大きくなって夫婦2人だけになったから2LDKでいいや”、っていう方や、その反対の方もいるでしょうし、80㎡→60㎡になった時の金額の補償、60㎡→80㎡になった時の上乗せ金額についても打ち合わせを行わなきゃ、です。

通常の場合、建て替えは発議して10年かかる、と言われています。
今回の場合は、降って湧いたような事案ですし、700戸くらいの大型マンションでしかも団地型です。
とても大変な作業になります。
“こんなのとてもじゃないけど素人じゃできないよ。どっかコンサルタントに依頼しよう”となるのでしょうが、そのコンサルタントを決めるだけでも専門委員会を立ち上げて、組合員からコンサルタント業者の紹介を募って、共通仕様書で見積もりを取って専門委員会で検討し、数社に絞ってプレゼンテーションを実施し、1社を選定して議案化し、やっと臨時総会で承認を得るという工程を踏まなければなりません。
こんな作業を何度も何度も繰り返さなければなりません。考えただけで大変な作業です。

売主やゼネコンさんや下請け業者さんは、マンションというのは1つの建物を区分して多くの人が所有している形態で、意思決定には合意形成が欠かせない、しかもその合意形成を得るまでには大変な労力と作業量が必要だという事を肝に銘じて仕事してほしいものです。

本当に罪作りなことをやってくれました。アンポンタン!