マンション管理士の独り言・・・690

「横浜傾きマンションの裏側にあるもの・・・⑥」

杭打ち業者の旭化成建材は、“すべての責任を負います”なんて言っていますが、これは分譲マンションのことを知らない人の発言です。
意気込みは良しとしますが、所詮外部の人の話です。区分所有者=組合員ではない。予
言しますが、今後すべての責任と負担は管理組合にかかってきます。

今は区分所有者=組合員のベクトルが売主や旭化成建材へ向いていて1枚岩のようですが、そのうちにほころびが見えだしてきます。
流石に天下の三井さんです。4棟すべて建て替える方針だそうです。
しかし現実として上手くいくのでしょうか?
実際に傾いている建物は建て替えなきゃいけないでしょうが、杭もしっかり支持層まで達していて健全なマンションは“何も建て替えなくてもいいじゃん。このままでいいよ”って組合員が必ず出てきます。
本マンションは4棟で構成される団地のようですから、管理組合が5つ存在します。
各棟の管理組合に全体管理組合を加えた5つです。
当然被害の大きい棟の管理組合と被害のほとんどない棟の管理組合とでは建て替えについて温度差があります。
このあたりの合意形成がとても難しいのです。
団地での建て替えの場合、その棟の5分の4以上の賛成とともに団地を構成する他の棟のそれぞれ3分の2以上の賛成が必要です。とてもハードルが高いのです。
管理規約改正にトライしたことのある理事さんならわかるでしょうが、規約改正の4分の3の承認を得るのもとても大変なエネルギーが必要です。

三井不動産はじめ売主サイドは、“全棟建て替えるって言ってるのだから、管理組合さんで意見をまとめてよ。まとめてくれなきゃ建て替え出来ないっしょ”となります。
更に「建て替え賛成派」と「反対派」さらには「建て替えりゃ良いってもんじゃなかろうもん派」など精神的苦痛に対する慰謝料などを要求する強硬派も出てきます。
そして管理組合に対しては、“さっさとまとめろよ”と早期解決を求めたり、“そんな弱腰でどうする、もっと要求しろよ”なんていう沢山の意見も出され始めます。

その挙句に、“今の管理組合の方針には納得できない、自分たちだけで行動する、強いては訴訟を提起する”なんてなります。
そうなると売主サイドから、“管理組合さんは意見をまとめきれないじゃん、訴訟なんて起こさせないでよ。当事者能力あるの?”ってなります。

残念ながらまず間違いなくそのように展開することになります。
そのままのストーリーを進んできた管理組合さんを沢山見てきました。
「強硬派が起こした訴訟が敗訴になった時、慎重派の住民が法廷で拍手をして喜んだ」なんてことになっちゃいます。

最終的には責任はいつの間にか管理組合さんが負わされる羽目になります。

本件マンションの区分所有者の方は本当にお気の毒だと思いますが、これからが正念場です。建て替え竣工まで15年はかかると思います。

「横浜傾きマンションの裏側にあるもの」は、マンション管理組合の合意形成のむつかしさです。