マンション管理士の独り言・・・795

「大規模修繕工事での建築士の役割」

今月号のリビング北九州誌では大規模修繕工事をどのように進めればいいのか?という質問について回答しています。
毎度のことですが、限られた紙面なので概略のみしか回答できていませんので、補足を独り言でつぶやいちゃいます。
大規模修繕工事とは、マンションの共用部の補修を行う事です。専有部分は対象範囲外です。専有部分はその人のものだから、その人が都合のいい時にやってよ、です。

通常第1回目の大規模修繕工事では、外壁タイルや塗装の補修、屋上防水補修、窓周りのシーリング打替え、鉄部塗装は必ず行い、資金に余裕あれば階段や解放廊下、バルコニーの防滑シート貼りなどの補修を実施します。
外壁タイル補修では、タイル脳天からの「ピンニング工法」、浅目地ならば目地部分への「パターン打ち」など、外壁クラックについては、「Uカット工法」「摺込み工法」など、劣化具合や新築時の施工方法などによって補修工法が異なってきます。
代表的なのが、屋上防水補修で、新築時の施工方法が「改質アスファルト工法」なのか、「シート防水」なのか、「シングル葺き」なんてのもありますし、狭い面積ならば、「ウレタン塗膜防水」なんて言うのもあります。
第1回目では、既存の防水層を残しその上に新しい防水層を被せる「被せ工法」が一般的ですが、劣化が進んでいて大掛かりな下地処理が必要という場合には、「全撤去工法」となる場合もあります。

どの工法を採用するのかについては、劣化の進み具合や新築時の工法、更には費用や工期、住民への負担の少なさなどを総合的に判断しなければなりません。
工法が決まったとしても、例えばシート防水ならばシートの厚みを何ミリにするのか?「被せ工法」ならば、既存の防水層を残しその上にシートを張るわけですから、屋根の対荷重は十分なのか?
絶縁工法とするのか密着工法とするのか等についても最適な選択をしなければなりません。
「被せ工法」でなく「全撤去工法」ならば、既存の防水層を撤去してから新たな防水を施すまでの間の養生をどうするのか?なども検討しなくてはなりません。
養生をしっかり行わないと、撤去後の大雨で最上階住戸に漏水しちゃうかもしれません。

これらを全てスケジュールごとに理解し、手待ちにならないように決めるべきは決めていく、という作業をこなしていかなければなりません。
ハッキリ言って、素人では無理です。
経験のある1級建築士での設計監理方式をお勧めします。

大規模修繕工事に関与する1級建築士は、1級建築士ならば誰でも良いかというとそうではありません。
大規模修繕工事というのは、そこに人が住んでいる状態で行う補修工事ですから、何より住民への気配りが大切です。新築時の設計監理とは大きく異なります。
新築建物の設計監理しかやっていない建築士さんでは大規模修繕工事の設計監理は務まりません。
エアコンの脱着、洗濯物が干せる日の確保、不具合箇所アンケートの実施、網戸の脱着、玄関ドア枠塗装のための住戸内入室日の調整など、です。

また、工事が始まったら施工業者との打ち合わせや材料メーカーとの打ち合わせや検査なども頻繁に行われます。
また、竣工後の材料使用量の検査も必要です。使用済の塗料缶の数量検査などもあります。
これら適宜適正な検査のためにも責任施工方式で、施工する業者さんに丸投げするのではなく、大規模修繕工事に経験のある1級建築士に依頼するというのが、正解です。