マンション管理士の独り言・・・815

「中古マンションクライシス・・・②」

前回は修繕積立金が当初3,000円~4,000円程度と低く設定されているマンションでは5年目に2倍、10年目には3倍程度に値上げされる。それだけ値上げして、さらに分譲当初に負担した修繕積立基金を加えて、それで何とか第1回目(築後12~15年後)の大規模修繕工事時費用は賄える。
ただし、第2回目の大規模修繕工事時に向けては、積立基金なども使い切ってしまっているので更なる値上げが必要だとつぶやきました。

では仮に積立金が当初の5倍になれば、どうなるかについて簡単なシュミレーションをしてみましょう。
当初4,000円だった積立金が20,000円となります。
今の金利では、月額20,000円というのはローンの返済額換算で35年払いとして約690万円に相当します。
つまり2000万円で中古マンションとして売り出した時、返済額から見ると購入者は2690万円の物件を購入するのと同じということになります。
中古として2000万円の価値しかないマンションを2690万円で購入する人はいません。ではどのようにしてこの物件を売るのかというと、2000万円から690万円を引いて1310万円で売るしかありません。

でもそれじゃ、売主さんは売りません。2000万円の価値があり、また長年住んで愛着のある我が家を690万も値引いて半ば叩き売るようなことはしたくありません。
また、売りたくっても売れません。
1310万円ならばその時のローン残債に全く届きません。
1310万円で売れたとしても、700万円くらいの追い銭をしないとローンは完済できないはずです。

中古マンションとして2000万円の価値がありそれで流通市場に出したとしても、購入する側から見ればローンや管理費の支払額に加えて毎月20,000円の修繕積立金が乗っかかるわけですから、それなら2500万円で積立金10,000円の物件を買おうとなります。
つまり売れないのです。

このことは、現有の中古マンションを売って、新たに住み替えよう、買い替えようということが出来にくくなることに直結します。
また、中古マンションの市場価格の下落にも結び付きます。
新築マンションの場合は、売主さんがこの価格で売ろうとすれば、購入者は買うか買わないかの選択しかありません。
つまり新築マンションの場合、価格決定権は売主さんにあります。
これに対し中古マンションの場合は、最終的な価格決定権は売主さんと買主さんの合意で決定されます。
また中古マンションでは、多くの他の中古マンションとの競合に打ち勝つ価格を設定することが必要です。価格決定権は、中古市場にあるとも言えます。

中古で売り出す場合には、他の多くの中古マンションとの競合があり、ローンや管理費、積立金を含めた毎月の負担総額がストライクゾーンに入らなければ売れないってことを忘れちゃいけません。

供給される中古マンションが減少すると、また売れずにだぶつき始めると、新築マンションを含めた不動産業界の景気が下降線をたどることになります。
早くて今から5年後、遅くても10年後には、このような中古マンション市場の縮小が現れてきます。
北九州は特に顕著に現れることでしょう。

何故って、新築マンションの売主さんが当初設定する修繕積立金があまりに低額だからです。不動産業として自分で自分の首を絞めているのが分かんないのかな、って思います。