マンション管理士の独り言・・・1164

マンション管理士の独り言・・・1164

「売主さんの責務」

物の売買において実物を見ることなく購入するのは、ネット販売と分譲マンションくらいでしょう。注文住宅の場合の契約形態は請負契約であって、注文者の意向に沿った建物の工事を請け負って建設します、って内容です。

まだ出来上がっていないという点では分譲マンションも注文住宅も同じですが、注文住宅は請負契約、分譲マンションの場合は売買契約と大きく異なります。

分譲マンションの場合、敷地にはまだ建物の影も形もない、いわゆる青田の状態で販売が開始されます。宅建業法により、確認申請がおりた瞬間から販売が開始できます。

なぜ、青田の状態から販売を開始するのかっていうと、建築基準法では竣工後1年を経過した建物は新築表示とはならないからです。常識的に考えても竣工後1年経過したマンションは、人気がない、売れ残り、鮮度が落ちている、って思われてしまいます。

少しでも早く販売を開始したいっていう売主さんの一方的な都合です。

買う方からすれば、出来上がったものを実際に手で触れて、窓からの眺めを体感して、上階からの遮音性能までも確認して購入したいものです。

多くの方が人生で1番高価な買い物になると思われる分譲マンションですが、完成品を見ることなく購入しなければなりません。

ですから売主さんには、購入者に対し出来るだけ“竣工後の様子”などが分かるようにすることが求められます。パースやCG、パンフレットなどで購入者が“竣工後の様子”をイメージ出来るような配慮が必要です。

“竣工後の様子”というのは、ただ単に外観やエントランスデザイン、設備などを指すものではありません。建物そのものの性能も当然含まれます。

コンクリート圧縮強度や、床のスラブ厚、鉄筋に対するかぶり厚、そして何よりも階下への遮音性能が大事です。

売主さんは階下への遮音性能についてキチンと表示すべきです。

以前はLL45,LH50などとパンフレットに記載していましたが、最近では“LL45,LH50の床材を使用していますが、竣工後の遮音性能を保証するものではありません”なんて記載されています。それでも記載するだけ“まだまし”なのが現状です。

車を購入するときだって、燃費は○○キロメートルです、馬力は△△ですってキチンと表示して、もしそれが適ってなかったら、公取法に抵触しますし、最悪の時はリコール対象になります。

車よりずっと高額な分譲マンションが、その重要な階下への遮音性能を表示しなくていいというのは、理解できません。

以前は、竣工後に騒音測定器で実際の遮音性能を調べていました(環境調査)が、現在の売主さんで竣工後に環境調査を行うところは皆無になってしまいました。

だから竣工後の遮音性能がいくつなのか誰も分からないというのが現実です。

設計士さんもいい加減なものです。竣工後の建物性能が分かんなくても何ともおもってないようです。

マンションを購入した人が、最初に後悔するのが上階からの騒音です。あるいは階下からの騒音苦情です。

「分譲マンションだから、遮音性能が高いと思っていたけど、こんなに上階からの音が聞こえるとは思っていなかった」です。

販売センターの営業マンも、「あまり気になりませんよ」程度でお茶を濁しています。

市内マンションは、スラブ厚は在来工法で200mm、ボイド(中空)スラブで250mm程度です。LL45、LH50が確保できるかどうか怪しい厚みです。

騒音トラブルが、上階の子供のしつけや階下の方が過敏すぎるって住民間の問題に矮小化されているのが現実ですが、ちょっとそれは違わない?って感じています。