マンション管理士の独り言・・・686

「横浜傾きマンションの裏側にあるもの②」

今回は工期に関してつぶやきます。横浜傾きマンションの杭打ちを請け負った旭化成建材の記者会見の折に、記者から「工期に関してプレッシャーがあったのではないか?」という質問がありました。
これに対して「当時は業界全体が活況でしたが、特にプレッシャーはありませんでした」と模範的な解答が出されました。
こんな回答をするから、マンション住民から“誠意がみられない”なんて印象を持たれるのです。
プレッシャーがないわけないじゃん。

どの売主さんでも引き渡し時期を設定しています。
多くの場合4月1日から翌年3月31日までが単位年度ですから、今年度に売り上げ計上するためには何としても3月31日までには購入者に対し引き渡しをしなきゃならないのです。
売主の三井不動産もゼネコンさんに対し設定した期限までに必ず引き渡しできるように命じています。
元請けゼネコンさんが工程を組み、下請け業者さんに対し例えば杭打ちは必ずいついつまでに終えるようにと厳命します。

宅建業法では、建築確認申請がおりれば、着工前で建設地がまだ草ぼうぼうの状態でも販売することが出来ます。
竣工時完売を目指し、そのためには少しでも長い販売期間を確保するために草ぼうぼうの状態であっても棟外モデルルームを作って臨場感をあおり積極的に販売します。
購入した方も売主が設定した引き渡し時期にあわせて転居の準備をしたり、転校手続きを行いますので、間違っても引き渡し時期が遅れることはできません。
何があっても引き渡し時期厳守です。
工期が短く、あるいは足りないために建物に不具合があってもそれを背負い込むのは全て購入者です。

Sマンションです。
3月31日の引き渡しに間に合わせるために急ピッチで工事が進められました。
いわゆる突貫工事です。
“3月31日じゃ無理だからもう1か月延ばせば”って誰もが思っていますが言い出せません。そして何とか工期ギリギリ一杯に完成し、引き渡しも終えました。
“やればできるじゃん”なんて言ってた上司もいました。

入居が開始されて数か月たったころ、1階の購入者さんから「なんか、お風呂が変な感じなの。浮いているような・・・」ってお電話です。
工務担当者と一緒に現地確認に行って、床下収納から覗いてみようと取り外したら、床下が水で満杯の状態です。
工期がなかったために設備業者さんがお風呂の排水をつなぎ込んでいないのです。
数か月の間垂れ流したお風呂の水が満杯になりバスタブを浮かしていたのです。
職人さんはおそらく知っていたのでしょうが、自分が手間取っていると次の職方さんが次工程の工事ができないので、わかっていても仕方なかったのでしょう。これは悪意のない例。

工期がしっかり確保してないとしっかりした工事ができないし、いい建物にはなりません。
いかにも、何とかして、3月末に引き渡しと急いでいるなって物件は、その後半年もしないうちに漏水だってあります。

もう少し工期があれば、キチンとした工事が出来たのに、なんて愚痴る職人さんを沢山見てきました。