マンション管理士の独り言・・・744

「登記できない」

もう長いことお世話している管理組合さんです。
お住まいになっていたお父さん(区分所有者)がお亡くなりになりました。
奥さんはずいぶん前に他界されていたので、法定相続人は同居していたお子様(といっても40過ぎの独身男性)2人です。
相続手続きに入りましたが、このお父さん結構お盛んな人だったみたいで、戸籍謄本をとってみたら隠し子(非嫡出子)がいました。

非嫡出子だって法定相続人ですから、遺産分割の当事者となります。
遺産をどのように分配するかについて法定相続人3人で話し合いが持たれましたが、決着しません。
決裂しました。非嫡出子の方はこれ以降連絡が取れない状態です。
お父さんとずっと一緒に暮らしていたお二人と、あまり恵まれていない環境で育った非嫡出子の方とでは話し合いがスムーズに決着しないのもうなずけます。

遺産分割協議が整わないし、今後も整うことは極めて難しい状況です。
ですから住戸の相続登記が行われず、お亡くなりになったお父様のままの状態です。
せめてマンションの所有権移転登記だけでもとお願いしましたが、叶いませんでした。
これは困ります。管理組合は厄介な問題を抱え込みました。
まだその住戸に法定相続人のうちお一人が住んでいますが、転居の希望があります。
しかし名義が亡くなったお父さんのままですから売るに売れませんし、貸すに貸せません。今後法定相続人の方がお亡くなりになったら、相続登記はいよいよ難しくなるばかりです。
住戸という専有部分は法定相続人の方(今は3人の共有)の所有でしょうが、敷地や共用部分の共有部分の所有者でもあるのです。
そのマンションを購入した人全ての方と共有関係にあるのです。

お亡くなりになり相続人が相続財産である住居を放棄したり、相続人そのものがわからない場合は、管理組合が利害関係者となって相続財産管理人の選任を裁判所に申し立てることはできますが、法定相続人が自らの意志で遺産分割協議が整わないとなると裁判所の出る幕じゃありません。
もっとも管理組合が利害関係人となって相続財産選任の申し立てを行おうとすると予納金が発生するわ、総会で承認を得る必要があるなど、大変なエネルギーが必要です。

マンションでは、すごい勢いでそこに住む人の高齢化が進んでいますし、やがてお亡くなりになり相続が開始される、となります。
フランスでは土地家屋などの財産を買ったら誰が相続するかまでの責任を持つというのが所有者としての責務だと考えられており、あまり相続で揉めることはないようです。
ところが日本では、所有者が亡くなる前に相続の話をするのは不謹慎だという考えが根深く、誰がどの相続財産を相続するのかは、相続が開始されてから相続人間で話し合われるというのが一般的です。

話し合いで協議が整えばいいのですが、整わないときは、分譲マンションの場合、管理組合にそのトバッチリが来ることが考えられます。
管理組合には大迷惑です。

もうお亡くなりになりそうだなって方は、ほかの財産は兎も角、マンションの住戸だけは生前に相続する人を決めておいてほしいものです。
亡くなるのは仕方ないけど、相続協議が整わず、その挙句管理組合に迷惑をかける、って事にならないようにしてほしいものです。

これを管理規約に書き込むのは・・・、難しい。
総会の決議でも・・・難しい。