マンション管理士の独り言…548

「理事長を守れ」

例えば、AさんがB工務店に増改築の工事を発注したとします。
B工務店はAさんの要望に従い指定された仕様で見積もりをします。200万円でした。
AさんはB工務店と工事請負契約を取り交わします。
その後、指示していた仕様から、物置設置工事がすっかり抜け落ちていたことが判明しました。
確かにAさんは“物置も設置してね”と依頼し、B工務店も“物置設置費用は今回の代金に含まれています”と言っていました。
しかし担当者の連絡ミスで物置設置工事が抜け落ちていたのでした。

B工務店が泣きついてきました。
“確かに物置設置も依頼されていましたが、見積もりからは抜け落ちていたんです。100万円別途にかかります。何とか出してもらえませんか?”
“工事請負契約書には物置設置工事も含むって書いてるじゃん、そっちのミスでしょ。うちは払わないよ。”
“うちのミスなのは認めますが、100万円全部ウチが被ったら大アカです。全部とは言いませんが、少しだけでも出してください。”
みたいなやり取りが交わされます。

そこでAさんは考えます。
“工事請負契約には物置設置工事も含むって書いてるし、見積もりを見落としたのはアッチのミスじゃん。払わなくていいよな。でも本当は300万円かかる工事を見落としたからっていう理由だけで全部アッチに負担させるのも酷だよな。もともとは300万円かかる工事だもんな・・・。仕方ない50万円上乗せしてやるかっ”てことでAさんとB工務店とは50万円ずつ出し合う事で折り合いが付きました。
このように個人の場合は、Aさん一人で結論が出せます。

さて、これがマンションだとこうは行きません。
仮に理事長さんがAさんみたいな物分かりのいい方だったら、「管理組合で半分は負担しよう」って思ったとしても決して口に出しちゃいけません。
理事や区分所有者の中に、“そんなのアッチのミスじゃん。管理組合が出す必要ないよ。全部アッチに負担してもらわなきゃ”って強硬派の人が必ずいます。
でもそれじゃB工務店との間では話がつきません。
理事長としては話がつかないって言うのはわかっていてもまずは、“ソッチのミスじゃん。うちは一銭も上乗せしないよ”って言わなければなりません。
そして交渉した結果、“半分出すことで折り合ったよ”としなければなりません。
当初は全部アッチの負担でという事で話をしたけど、難しかったので半分で折り合ったというアリバイを作っておかなきゃならないのです。
当初は全部アッチの負担で話をしたとなれば、強硬派の人も“まあ、仕方ないか”って思ってくれやすいのです。
遠回りのようでもいろんな考え方のいる管理組合では、このように考えられる多くの意見に対応できるようにして物事を決定しなければなりません。
決定までのプロセスが大事です。

総会の季節です。
多くの管理組合では理事長さん=議長です。
総会での議事進行を上手く運営するには、「考えられるいろんな事を検討し交渉した結果がこうなりました。これでよろしいでしょう?」という報告や議案にしなくちゃ、です。

マンション管理士の仕事はこの辺りのノウハウや情報を提供し、組合員のために身を粉にして動き回っている理事長さんを守ることでもあるんですよ。
一筋縄じゃいかない意見を持ってる組合員から理事長さんを守れ、というお話でした。